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まんがタイムきらら展が良かったので行くべき

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まえおき

漫画読みにとって、出版社というのはときに味方でありときに敵である。
個人的には出版社に対して好意を抱く回数より、敵意を抱く回数のほうが多い。
好きな漫画が打ち切りエンドを迎えたとき、好きな雑誌が廃刊になったとき、漫画読みは行き場のない怒りに震えて「どうして俺の好きな漫画にこんな仕打ちをするのだ」と出版社を憎む。
出版社にとって漫画雑誌の出版は慈善事業ではないので、人気のある作品を残し、人気のない作品を入れ替えてより面白い雑誌へと成長させるのだ。それでも販売部数がふるわない雑誌はお取り潰しにし、人気のある一部の作品だけを他の雑誌へと移籍連載にする。それが出版社にとっての漫画雑誌運営というものだ。
わたしにも理屈はわかる。理屈で考えればそういうことだ。出版社は何も間違ったことをしていない。しかし感情ではそれは叶わない。世間的な人気とわたしの好みは違う。世間的な人気作だけを残して、わたしの好みの漫画を次々と打ち切りに追いやる出版社を憎まずにはいられない。
それが、わたしと出版社との関係性である。

行くまで

ある日、わたしが敬愛する4コマ作家の一人である鈴城芹先生が、「まんがタイムきらら展」の紹介をリツイートしていた。
鈴城芹先生をご存知だろうか。電撃PlayStation付録の電撃4コマで「家族ゲーム」を連載したり、まんがタイムきららMAXで「看板娘はさしおさえ」「くすりのマジョラム」を連載していた漫画家である。
わたしは「看板娘はさしおさえ」を愛読していた。高校在学中のことだ。何がそんなにわたしの心に響いたのか、上手く説明するのは難しい。しかしわたしは「さしおさえ」がとても好きだった。今でも好きだ。
毎月19日になるたびに、まんがタイムきららMAXを立ち読みできる書店に寄っては「さしおさえ」を読んでいた。
毎日の受験勉強に疲れる高校生のわたしにとって、「さしおさえ」は癒やしだった。

大学生になり、時間的・金銭的余裕が生まれたわたしは、まんがタイムきららMAXを立ち読みではなく購読するようになった。
購読するようになると「さしおさえ」以外にも幾つか読む作品が増えた。一方で、「さしおさえ」は連載を終了し、次の「くすりのマジョラム」が始まった。
まんがタイムきららMAXには「○本の住人」、「ワンダフルデイズ」、「ぼくの生徒はヴァンパイア」、「アキタランド・ゴシック」、「カレーの王女さま」、「ソラミちゃんの唄」、「うにうにうにうに」など、たくさんの名作が連載し、そして、終了していった。

また、きらら系列誌で相互に特別連載が行われることも多く、そんなときは他の系列誌も読んだ。
きらら本誌の「三者三様」、「かみさまのいうとおり!」、「うぃずりず」、キャラットの「GA 芸術科アートデザインクラス」、「セカイ魔王」、「ごきチャ」、「はるみねーしょん」、「キルミーベイベー」などがそれにあたる。

そんな中、新たなきらら系列誌が生まれた。まんがタイムきららミラクである。ミラクは創刊号から購入した。
ミラクには他とは違う個性的な作品が溢れていた。「純粋欲求系リビどる」、「夜森の国のソラニ」、「メラン・コリー」、「月曜日の空飛ぶオレンジ。」、「きしとおひめさま」、「Seed」など。

大学在学中、数多くのきらら系4コマを読んだ。少し変わった作品が好きだった。しかし少し変わった作品は次々と連載を閉じていき、鈴城芹先生の連載も途絶えることとなった。
その頃にはわたしは6年の大学・大学院生活を終えて社会人となっていた。時間的余裕も少しずつ失われ、好きな作家の連載が途絶えた。ついにわたしは雑誌を購読することをやめた。2015年の年末の出来事である。

そして今年。まんがタイムきららは15周年を迎えた。
まんがタイムきらら展が開かれる、それを伝えたのは、他ならぬ鈴城芹先生であった。
きらら展には、連載中・連載終了を問わず、きらら系列誌の紙面を彩った80作品の描き下ろしが出展するという。
そこには、鈴城芹先生の作品もあるのだという。
行かねばならない、と思った。

行った

2018年11月17日(日)。アーツ千代田3331。午後6時。わたしはまんがタイムきらら展に足を踏み入れた。
当日券1,500円。
音声ガイドもある。本格的だ、と思った。しかし東山奈央さんや水瀬いのりさんのトークを聴くために来たのではない。無粋である。彼女らにはライブ会場で会えば十分。わたしは漫画雑誌の展覧会を見に来たのだ。

展覧会の開会宣言から始まり、過去のきらら系列誌すべての雑誌展示。すばらしい。
わたしが毎月欠かさず買っていたあのころのまんがタイムきららMAXが、まんがタイムきららミラクが、すべて並んでいる。もちろん、それほど買っていなかったまんがタイムきらら本誌やキャラットも並んでいる。
わたしが買うようになる前の雑誌、買わないようになった後の雑誌。それぞれの時代にそれぞれの読者がいて、それぞれが別の時代の表紙を懐かしく思うのだろう。
わたしはここで他の客の2倍近く時間を費やした。

そしてメインコンテンツ、80作品に及ぶ描き下ろし展示。すべてが「1枚イラスト」と「1ページ分の漫画」のセットである。
この展示がまた凄い。雑誌ごと・作者名ごとの展示が功を奏したというべきか仇となったというべきか、一番最初の作品が「ビジュアル探偵明智クン!!」である。どうだ、知らないだろう。わたしも知らない。きらら本誌で2006年まで連載したものだ。
その後には「三者三様」、「あっちこっち」、「けいおん」など無難なラインナップが並んでいるが、しかし、トップを飾るのが阿部川キネコである。
きらら展は過去を捨てていない。既に連載が終わって12年が経つ作品を堂々のトップに置く展覧会なのだ。
その後も竹本泉の「バラエティも~にん」やととみねぎの「ねこきっさ」、「火星ロボ大決戦!」、「ふおんコネクト!」など、各時代を代表した(?)作品が次々と描き下ろし作品を展示。なんと彩りのある展示だろうか。
今の連載作品や、過去のアニメ化作品にばかり焦点を当てるという選択肢もあっただろう。しかし今回のきらら展では、まさしく過去15年分の歴史全てを表現する80作品が選択されていた。いちファンとして大いに感動を覚えた。

濃厚な描き下ろし展示の後は、作画風景を撮影した動画展示。対象は「NEW GAME!」、「幸腹グラフィティ」、「夢喰いメリー」の三作の今回描き下ろしたカラーイラストである。どれも雑誌連載において美麗なイラストに定評があり、その作画動画は多くの人が食い入るように見つめており、何度も感嘆の声が漏れていた。

その後、なんとショートアニメーションの展示が入る。1分に満たない動画だが、きらら系列15年分のキャラクターが有名・無名問わず一同に介するとてもきらら愛に溢れる最高に素晴らしいアニメーションだった。
しかもこのアニメーション、制作したのが「純粋欲求系リビどる」を連載していた眉毛先生である。名義は榎戸駿先生に変わっている。
二週間に満たない開催期間の展覧会のためにアニメーションを作る。それもかつての連載作家に依頼をする。
「まんがタイムきらら」というブランドに対するこだわりと、この15年間に対する思い入れの強さを感じることができた。

そしてアニメ化した作品の紹介、現在好評配信中のきららファンタジアの紹介である。
アニメ紹介はまぁ割愛するが、きららファンタジアの紹介においても、やはり「きららブランド」へのこだわりが強く現れていることが伝わった。
まんがタイムきららは、きららというブランドをとても大切にしており、それを体現するのがきららファンタジアであり、今回のまんがタイムきらら展なのだろう。

そして最後。スペシャルコーナーにはきらら展を彩る28人のキャラクターの等身大POPに加え、来場したきらら作家の直筆イラストが展示されていた。この直筆イラストは開催期間中に訪れた作家がリアルタイムに掲載していくというものである。
開催二日目ではまだ白い部分の多いイラストボードだったが、きっと最終日には所狭しとキャラクターで埋まるのだろう。
このイラストボードも、蒼樹うめ先生を始めとする人気作家だけでなく、描き下ろし展示と同様に様々な作家先生によって描かれており、イラストボードのみに参加している作家さんも多数おられた。
このコーナーは撮影自由だったので一枚紹介しよう。目立つ位置にドンと居座るミソニちゃん(ミソニノミコト)がとてもキュートである。

おわりに

展示を見終わったわたしは、物販コーナーで図録を買い帰路についた。

図録にはすべての描き下ろし作家からのコメントも寄せられており、懐かしのあの先生やこの先生からのお祝いのメッセージが多数書かれていた。他にもインタビューなども掲載されており、マストバイな一冊である。
まんがタイムきららは過去の作品を忘れていないし、きららに連載されていた作家先生もまた、きららを忘れていないのだと思った。

わたしにとって、出版社はやはり敵だと思うことはある。あの作品もこの作品も、続いていてほしかったと思う。
しかし、きらら15周年の節目に、芳文社が過去の作品を忘れずに展示してくれたこと、過去を尊重してくれたことを、一人のきらら系4コマファンとしてとても嬉しく思った。

PS

まんがタイムきららカリノ…

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