もくじ
まえがき
皆さんは実印って持ってますか。
自分は持ってなかったんですよ実印。必要になったことないし。
それが去年作るハメになったので、その顛末と印鑑文化に対する恨みを書いておきたいと思います。
実印はいつ要るの?
去年の8月、実家の父が亡くなりました。
とりあえず体裁の整った葬式をあげ、さして裕福でも貧乏でもない我が家は遺産については特に深く考えていませんでした。
そして現れたのです。「持ち家の相続」ってやつが。
父を亡くした我が家は、母一人と二人兄弟です。
自分と弟はすでに独立して関東で働いており、当然、家は母親が相続することとなりました。
が、当然ながらこれは遺産相続であり、家族の間で合意があるだけではダメだったのです。
きちんとした書類を作らなければならず、そこには、遺族全員の実印と印鑑証明書が必要だったのです。
そもそも「実印」って何?
実印を持つ必要に迫られた私は、少々お勉強することにしました。
実印というのは実は特定の種類のハンコを指すのではなく、「お役所に実印として登録したハンコ」のことを指すらしいです。
なので、そこらへんの文房具屋で数百円で売られているハンコでも実印にできます。
とは言え実際には、そういった安い「三文判」は実印にすべきではなく、もっときちんとしたハンコを掘ってもらってそれを実印とするのが普通です。
さて、それらを詳しく見ていきましょう。
実印はどう作るの?
- ハンコ屋さんでハンコを買う
- お役所にハンコを登録する
の手順を踏みます。
ハンコを買おう
まず「実印」でググってみましょう。「実印とはどうあるべきか」という内容がズラズラっと出てきます。
「ネットで即日OK!」だの、「男性は15mm以上」だの、「実印と銀行印と認印は分けましょう」だの、商売文句がたくさん出てきます。
あ、これはアカンやつや、安かろう悪かろうの業界のやつや、と思った私は、ネットから購入せず実店舗で買うことにしました。
お家の近所にある某印鑑屋さんに出向き、話を聞きつつ見繕ってもらいました。
いわく、
- 男性向けはある程度大きいほうがいいよ
- でも大きくなると印材(材料になる木とか石とかのことです)が高くつくよ
- 同じ印材でもグレードがあって、ウチは最高級グレードとその次のグレードに絞ってあるよ
という感じらしいです。
だいたい12mmぐらいのものを勧められました。
で、印影について聞いてみると、
- 別に書体は何でも良いけど、ウチじゃ篆書体とか吉相体が良く出るね
- 吉相体は縁起物だからハンコの上に切り欠きを入れないものなんだよ
- 最初にパソコンで書体作って、筆の流れとかを考えて線をいじったりしてから出力するんだよ
- 手彫りでも機械彫りでもあんまり印影は変わんないよ。雰囲気がちょっと違うぐらい
- 機械が作るからって同じ印影になったりしないよ。書体いじるからね。ネットだと書体いじらないところもあるらしいけど
という話でした。
いよいよもって工芸品の色が強くなってきました。
とりあえずお話も聞かせてもらったのでこの店で注文しましたが、ネットストアと比べて三倍ぐらいの価格になりました。
この価格が妥当だったのかどうかはおそらく一生分からないでしょう。
お役所に登録しよう
実印はお店で買った段階ではただのハンコです。お役所に登録して初めて実印と呼べます。
実印を登録しにいきました。
川崎の役所は土日でも印鑑登録ができるので有り難いですね。
印鑑を登録すると印鑑登録カードがもらえます。これを役所に持っていけば印鑑証明書を発行できます。
なお印鑑登録したその場で、「印鑑証明は何枚必要ですか?」と聞かれました。
印鑑証明書がほしくて登録しているわけなので、当然必要なんですが、
「今持ってきた印鑑が載っている証明書をもらう」ということになんの意味があるのかな…?と思いました。
実印はどういう役目があるの?
そんなこんなで実印と印鑑証明書を手に入れて、無事に家の相続ができました。
はたして、私が実印を押したことに法的にどれだけの意味があったのでしょう。
「家の相続には実印と印鑑証明が必要なんだ」という決まりになっているから印鑑証明を作りましたが、
そもそも実印を持っていない人がわざわざ実印を作ってまで書類にハンコを押す必要はどこにあったのでしょう。
実印じゃなきゃダメなの?
本人確認をしたいなら、運転免許書なりパスポートなりのコピーを取れば済む話ではないんでしょうか。
むしろ印鑑ほど偽造しやすいモノで認証を行っている、というのは情報系の人間から見ればかなり異質です。
印鑑を用いた本人証明、というのは「この印影は○○さんの実印に一致するから、本人が押したに違いない」という証明です。
しかしこの本人証明、本当に証明として妥当でしょうか。
まず第一に、本人じゃなくても印鑑を押すことができるという点、次に印影があれば印鑑を逆生成できるという点。
これらの点で脆弱性にあふれていませんか?
誰かの印影をスキャンして、それを3Dモデル化して3Dプリンタで印鑑を生成することは容易です。高級な3Dプリンターを使えば金属成形もできますし、実用に耐える印鑑ができることでしょう。
もう、印鑑が本人証明になる時代は終わったと言っていいんではないでしょうか。
昔は印鑑がないと何かを保証できないから印鑑を押していたんでしょう。
でも、平成も終わろうとしている今、むしろ印鑑程度では何も保証できなくなってきました。
本当に何かを保証したいのであればデジタル署名を付けた方がよほど信用がおけますし、国民が簡単にデジタル署名を付けられる仕組みを作るべきではないでしょうか。
実印が無いと誰が困るの?
ウチの家の屋根には太陽光パネルが乗っていて、その登録を父の名義でしていました。
父が亡くなったので名義変更のために手続きをしていたんですが、あまりにも手続きが分かりづらい。
経済産業省の資源エネルギー庁。あそこのシステムは分かりづらい。
で、当然のように遺族全員の実印と印鑑証明を押させる。
太陽光パネルは私達の実印で動いてるんですよ。
んでもって、今ちょうど太陽光発電の買取価格とかがモメてて、あそこの対応すっごい遅いんですよ。
遅くて遅くてたまらない。書類出してから何ヶ月も待たせる。
んで、待たせた結果、「ここんとこが書類不備なので再提出してくれ」って手紙が送られてくる。
そんでもって提出すると、「印鑑証明は三ヶ月以内のヤツにしてくれ」って言われる。うるせぇテメェ。おめぇんとこの対応が遅いから印鑑証明書の期限が過ぎたんじゃボケェ。
こちとら印鑑証明取るのも一苦労なんですよ。実家は兵庫県、私は今神奈川県に住んでる。印鑑証明は神奈川県でしか取れない。
まぁ、マイナンバーカードがあればコンビニで取れるんですけど。マイナンバーカードすごいね!印鑑証明がとれるよ!!
結局のところ、「実印と印鑑証明」に変わるモノ、がまだ共通基盤として整っていないんでしょう。
もはや実印で何か安心できることなんてもう何一つないのに、半ば儀式的に実印を押させて、実印がなければ書類不備で突っ返す。
とにかく、「実印と印鑑証明」という仕組みがあって助かった!何かから守られた!っていう思いを感じたことはありません。
もう印鑑が必要な書類なんか滅べばいいのに。