はじめに
ここ一ヶ月ほど、フォトグラメトリー、つまり写真を元に3DCGを作るという技術にハマり、いくつかのモデルを作りました。
小さいものではレトルトパウチの梅がゆとか。
大きいものでは古民家丸ごと一軒とか。
こういうものを作っていくうちに、フォトグラメトリーの楽しさと同時に、困難さを目の当たりにすることが増えて、趣味にすることは厳しいんじゃないかな、と思ったのでその内容を共有しておきます。
面白さを共有しつらい
フォトグラメトリーは楽しいです。
一生懸命たくさん写真を撮って、それをソフトウェアに取り込んで3Dモデルにする作業は、技術が要るようで要らないようで面白いです。
その成果として穴が無くきれいな3Dモデルが出来ればとても嬉しいです。
が、出来上がった3Dモデル自体を眺める段階まで来ると、現代にはクオリティの高い3DCGがあふれていて、それらと比較して凡庸だなという感想になってしまいます。
権利問題をクリアしづらい
フォトグラメトリーはモノを3DCG化できます。技術的には写真に写せるものなら何でもです。
一方で、対象物について「フォトグラメトリーの題材にして良いか」問題をきちんとクリアできるか、というと厳しい部分が多いです。
フォトグラメトリーの題材にする、というのは2種類の権利を含みます。すなわち、
- 対象物を写真に撮る権利
- 対象物のデジタルな複製を作成・公開する権利
の2つです。
写真に撮る権利
写真に撮る権利についてはすでに明らかで、写真撮影が許可された場所・許可されたモノを対象にしなければなりません。
また、フォトグラメトリーは大量の写真を必要とするので、撮影がグレーな場所で長時間撮影していると、権利者から注意されるケースもあります。ありました。
つまり他人・他者の敷地内のモノを撮影するのは、明確に撮影許可が降りてない場合はアウトだと思った方が良いです。
デジタルな複製を作成・公開する権利
こちらが非常に難しいです。
フォトグラメトリーは現実の物品についてデジタルな複製を作成する技術です。
デジタルな複製を作る権利、公開する権利が法的にどうなのか詳しくないので、以下は私の想像でお話します。
たとえば自分が所有しているフィギュアをフォトグラメトリーの題材に選ぶとします。
このとき、自分で買ったフィギュアであれば「複製を作る権利」自体は所有しているでしょう。
一方で「複製を公開する権利」はどうでしょうか。
ここで別の例として本をスキャンして電子書籍化すること、いわゆる「自炊」を挙げます。
本を電子書籍化することは認められた権利ですが、電子書籍化したPDFをインターネット上に公開することはアウトです。
有料で販売されているものと同等のデータを公開するのですから、感覚的に当然でしょう。
フィギュアの3Dモデルも同じことが言えるのではないでしょうか。
有料で販売されている現実のフィギュアと、同等の3Dモデルを公開することはアウトだと考えた方が良いと思います。
また、フィギュアは鑑賞を目的に販売していますが、鑑賞を主な目的にしていない立体物、たとえば机や椅子のような家具、皿やコップのような食器などデザイン性があるものを複製することも危険でしょう。
ヤ○ザキの白いお皿をフォトグラメトリーして、「ヤ○ザキの皿です!」と言って3Dモデルを公開するのは避けた方が良い、ということです。
また、登録商標を含む立体物をフォトグラメトリーの題材にすることも避けた方が良いでしょう。すなわち、何かのロゴ・商品名を含むものは危険です。
そうなると、ペットボトルやお菓子の箱もそれ単体で3Dモデルにすることは危険でしょう。
フォトグラメトリーして良いもの
つまり、つまり、権利的にホワイトにフォトグラメトリーできる題材は、身の回りにはほとんど無いということです。
当然、ネット上に公開せず自分で見るだけというのであれば権利問題を無視して作成する分には構わないでしょうが、用途のない3Dモデルを作成して友人にだけ見せて終わり、というのは寂しいです。
以下を満たすものならネット上に公開してもまあ安全かな、と思います。
- 自宅または撮影禁止でない場所で撮影したもの
- 他者のデザインした物品の複製を目的にしていないもの
具体的には以下のようなものが該当すると思います。
- 自宅で撮影した人体やペット
- 自作小物
- 自室(物品単体の複製とみなされないもの)
- 撮影禁止でない公園の空間、建物(美術品単体の複製とみなされないもの)
- 撮影禁止でない場所で撮影した自然物(風景・樹木・草花・動物)
- 私有地の外から撮影した街の風景(※権利上OKに思いますが、3Dモデルに含まれる店や建物からクレームが来る可能性はあります)
もちろん、個別にフォトグラメトリーの許可を得た物品・場所も撮影できますが、個人の趣味として行うのは難しいかと思います。
撮影しづらい
ここまでの通り、フォトグラメトリーの題材として適するものは非常に限られています。
趣味のフォトグラメトリーだと小物が中心になりますが、権利上ホワイトな小物は少ないです。
そうなると空間を対象にすることになりますが、空間のフォトグラメトリーは撮影において以下の問題があります。
- 大量の撮影枚数が必要
- 上から撮った写真を撮りづらい
- 壁・天井が再現しづらい
- 細いものが再現しづらい
撮影枚数は言わずもがな、部屋一室の撮影でも最低100枚ほどの枚数が無ければ十分なモデルが作成できません。
また、建物や樹木のような大きいものを撮影する場合、上からのアングルの写真が撮れないことがほとんどです。その場合、作成した3Dモデルは上から見ると破綻したり、穴が空いたりします。
壁や天井のような一面同じ色の部分もフォトグラメトリーが苦手とするところで、自室の壁なんかは多くの場合大穴が開くか大きく歪みます。
細いものの再現も苦手で、樹木の枝はもちろん、空間を大きく撮影すると柵や階段の手すりもよく消えます。
これらの結果、撮影した写真を長時間かけてフォトグラメトリー化すると大穴が空いたり、写っているはずの柱が完全に消えたりします。
これをフォトグラメトリー独特の味として許容するのか、さらに長時間かけて手作業で補正を入れていくのかは好みだと思いますが、あまり楽しい作業とは言いづらいです。
屋外を撮影するなら、360度カメラや空撮ドローンがあると便利なのだと思いますが、個人の趣味としてそこまで手を出すのはちょっと…というところ。
とにかくコストがかかる
フォトグラメトリーは写真撮影にも3Dモデル化にも時間がかかります。
写真撮影はまだ工夫のしようがありますが、その後の3Dモデル化はPCで延々何時間も作業し、CPUやGPUの処理能力次第ですが1つのコマンド実行が数時間、という単位になります。
その間の電気代も相当なものですし、更にそこからトライアンドエラーを始めると、1つのモデル作成に数日作業というのもザラです。
おわりに
結局、個人の趣味としてのフォトグラメトリーは、権利的にホワイトかつ精度のよい3Dモデルを作るのは難しいです。
グレーゾーンはグレーのまま、3Dモデルは部分的に歪んだり穴が開くことを許容する、というのが個人の趣味での妥協ラインかな、と思います。