年始恒例、VTuberの話をする時期です。去年の記事はこれ。
去年の予想について
去年は「バーチャルと生身」という話で、バーチャルというマイノリティをどう扱うのかが注目される、と書きました。
しかし実際には、バーチャルタレントとリアルタレントの連携テクニック、という点についてはあまり1年間発展は無かったかなぁ、と思います。
一方で「バーチャルかつリアル」というスタイルは、個人活動者や、非バーチャル主体の活動者の中で増えてきたように感じています。
いわゆる2.5次元VTuberを名乗っているタイプで、「いざとなればリアルでも活動しますよ」というレベルから、「日常配信でも肉体をアピールしていきますよ」というレベルまで様々です。
このあたりについて、世間ではVTuberという肩書を便利に使ってるだけのリアル配信者じゃないかという批判もありますが、個人的には今更VTuberの定義をどうこう議論する意味はないと考えているので、本人が名乗っているならVTuberで良いのではないかと。
去年の実態について
既存IPの参戦
去年のVTuber業界で目立ったのが、既存IPのVTuber事業への本格参入です。ここでいうIPは知的財産、ざっくりいうと人気シリーズなどのコンテンツのことです。
2023年の春には活動を開始していた、ラブライブ!プロジェクトの「蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ」はVTuberこそ名乗っていませんしフィクション性が強めのプロジェクトではあります。
そこに続くのが2023年11月デビューのバンドリ!プロジェクト率いる「夢限大みゅーたいぷ」。
2023年5月に活動開始して2024年6月にアイドルデビューしたアイドルマスターシリーズの「vα-liv(ヴイアライヴ)」。
2024年7月デビューのアイカツ!シリーズ率いる「アイカツアカデミー!配信部」。
このように既存のアイドル系IPが次々と参入してきました。
中でもラブライブの蓮ノ空はキャラクターと声優をはっきりと区別して両面で活動していますし、バンドリ!の無限大みゅーたいぷは音楽ライブではリアルの姿で活動しました。逆にvα-livとアイカツアカデミー!配信部は今のところ”中の人”については禁句、と既存のVTuber文化に寄せたスタイルになっています。
これら既存IPから出たグループも単に台本通りにキャラクターを演じる訳ではなく、しっかりと今風のVTuberとして活動しており、VTuberブームの初期にあったような「運営の指示通りに動くことを要求されて演者の自由が効かない」みたいな感じではなさそうです。
そのあたり、今のVTuber文化を研究した上できちんと戦えるプロジェクトとして出してきたな、という印象です。
元気な新興事務所が多い
2023年12月に活動開始した、サンリオ×日テレClaNという布陣で展開する「にゃんたじあ!」。
2024年6月に活動開始、メンバーが共同生活を営む「Mixstgirls(ミクストガールズ)」。
2024年2月活動開始、毎週リアルイベントを開催する「Vebop Project」。
精力的に活動する事務所が多く立ち上がりました。流石に2024年にプロジェクトを立ち上げるだけあり、それぞれどう黒字化するかという点や、個人勢とは何が違うかという点について、しっかりとした答えを持っている感じがします。
今年の予想
去年は数年ぶりにVTuberのネットワークグラフを作ったんですが、この作業中、いくつかの界隈ではリアル配信者との融合がかなり進行しているように見えました。
具体的には、プロゲーマー界隈、麻雀界隈、ASMR界隈、マインクラフト界隈、それと一部の歌い手界隈。
特にゲーム系(麻雀含む)はお互いに交流が盛んなこともあり、VTuberとVTuberでない人の境目はかなり希薄で、「VTuberの一員」というより「ゲーム配信者の一員」の方がしっくりくる、ような状態の人も多くいます。
冒頭ではリアルタレントとの連携が発展しなかったと書いたので矛盾しているようですが、”現実空間イベントでは”連携しなかったものの、ネット上の活動ではリアル配信者とVTuberはほぼ融合したと言っていい、ということです。
そんな中、2025年のVTuberはサステナビリティ、つまりいかに安定して活動するかを考えて取り組む時代かなと思っています。
ここで活動を継続しづらいアンチパターンを3つ考えてみました。
- 自分を追い込む目的で、十分な収入の見込みがないのに他の仕事を辞めてしまう
- 将来への投資だからと、無理な頻度でスタジオを借りた3Dライブやオリジナル曲作成を行ってしまう
- 市場リサーチをやりすぎて、世間でウケている題材を無節操に取り入れて個性が消えてしまう
つまり闇雲に頑張っているVTuberから順に廃業していくと、そういうことです。
いま単純な「VTuberの需要」は大手が全部取りきってしまっています。ただ「VTuberが見たいだけ」のユーザーは大手だけ見ていればいい。そこは今年も変わらないと思います。
麻雀やASMRなどの活動の主軸を用意出来る人は、VTuberの人脈よりもそちら側の「別の界隈」の人脈を育てていく方がファン獲得の芽がありそうです。昨年の既存IPのVTuber化も、ある意味「既存IPのファン」をターゲットの一つとして参入していますし。
そういうファン候補をVTuber業界以外に求める、というのが中小規模の企業勢の今のトレンドかなと。VTuberの認知度が上がった今だからできる戦略ですね。以前だと界隈に受け入れてもらえない例がちらほら居たので。
もしくは2024年に個人Vの間でもよく目にするようになった歌枠リレーなどで、大規模に人脈を広げて「地元の有名人」になっていく方向もいいでしょう。これは熱心なファンを増やすというよりは知名度を上げていくという効果があると思います。
ただ、これらのスタイルで活動すれば人気VTuberになれるわけでもないでしょうし、演者は演者として適度に力を抜いて活動し、事務所は事務所で黒字を意識したマネジメント&興行を行い、ファンを飽きさせない程度にはイベントをし、かと言って息切れしない程度には休んでいく、そういう「継続可能な活動」が行われる時期だと思います。
あとは半分禁句ですがウケる例の一つとして、一旦有名になった企業所属VTuberが独立するなり転生するなりしてしまうパターンも増えてきました。
去年の湊あくあがまさしくそれで、企業と折り合いが付かず引退、公言はしていないものの転生先は公然の秘密、という感じで活動しています。
このパターンが「普通の進路」として定着してしまうと、大手企業から引退して”余生“を送りはじめる人もちらほら出るのかもな、という感じがあります。
ある意味のんちぃもこの枠ですね。誰の転生かは一応伏せておきますが。
このスタイルは今現在は業界のマナー違反、行儀が悪い、とみなされがちですが、年末に芸能界において事務所の移籍妨害は独占禁止法違反だとするニュースも出ました。VTuberが「芸名」なのか「演じられたキャラクター」なのかは判断が難しいですが、何らかの影響の出る話なのは間違いないでしょう。
今後一層、事務所の離脱者が増えることになりそうです。もちろんそれを補うだけの新人も入るでしょうが。
最後に大きな予想を一つ挙げておくと、上でも取り上げた無限大みゅーたいぷのような「リアルイベントには生身で出る」というスタイルの活動者が増え、既存グループの中からも一つぐらい出るんじゃないかな、と思います。
なぜかというと単純に、それが効率的かつファンも喜ぶからです。いまVTuberのリアルイベントは予算や技術の面で結構な妥協のもと開催されている物も多く、「生身ならこんな配慮いらないのに」と思うこともしばしばあります。いっそ生身を出してしまおう、という方向に舵を切るグループは出るはずです。これも一つのサステナビリティの形でしょう。
VTuberが良くも悪くも定着してしまった今、どんな新人にも目新しさはもうないです。
今年もたくさんの新人VTuberが生まれ、その一方でたくさんのVTuberが引退するでしょう。
見た目が良くて、性格も良くて、声もかわいくて、見ていると応援したくなる。そんなVTuberは今掃いて捨てるほど居ます。
どうやったらもっと人気になれるか、と同じぐらい、どうやったら無理なく続けられるか、を考える年かなと思います。