タワマンの上層はカップヌードルが固くなる、という話をご存知だろうか。
タワマンというのは当たり前だが物理的に高い。上層ともなれば100m近いこともある。そうなれば当然、上層の気圧は下界よりも低い。
気圧が低くなれば水の沸点は下がるので、タワマン上層階では100℃の熱湯は作ることができなくなってしまう。もっと低い温度でゴポゴポと沸騰してしまうのだ。
熱湯が作れないと何が困るか。カップヌードルである。カップヌードルは100℃の熱湯で作ることを前提に3分で完成するという表記なのだ。
カップヌードルを低い温度で作ると固くなってしまうのだ。もちろん、温度を考慮して長めの時間で作れば麺はやわらかくなるが、ぬるいお湯で長時間かけると当然おいしくない。
したがって、タワマン上層で美味しいカップヌードルを食べるのは不可能なのだ。カップヌードルは、下界で食べるほうが美味しい。
…というような文章を読んで、皆さんは素直に受け取るだろうか。
上の内容は、私の知る限り正しい科学に基づいて、ウソをつかないように記載している。標高が上がれば沸点は下がるし、カップヌードルの麺は固くなる。
しかし、常識的に考えてタワマンに登った程度で沸点が目に見えて下がるだろうか。そんなばかな。
標高3776mの富士山なら頂上の気圧は650hPaを下回る低気圧だそうだが、タワマンの上層程度ならせいぜい1000hPaを割る程度、日常的なお天気の変化の範疇だ。
沸点も下がるとは言っても99.x℃のレベル。カップヌードルの美味しさに影響があるわけがないだろう。
先の文章はとにかく物事を大げさに、非定量的に、人の不安を煽るように書き散らしたにすぎない。人間の感覚で分かるような差はないのだ。
人の感覚で分かるような差があるのか。ここが問題だろう。あるいは無意識下や長期的な健康を含めてもいい。人間に対して意味がある差があるのか。
この点を無視した、大げさな広告で高品質をうたう製品が目立つようになったと思う。
わかりやすい例だとオーディオ界隈で「音質が良くなる」と宣伝するものがそうだが、ゲーミング機器界隈も、本当に意味がある品質なのかと疑うばかりの過剰な高品質製品が多い。
別にウソで人を騙していると言いたいわけではない。人間にとって意味のある差があるんですか、ということだ。
タワマンで美味しくカップヌードルを作るために圧力容器を買う必要はないだろう。
音楽をより良い音で聴くために安定化電源を買う必要はあるのだろうか。オンラインゲームで勝つためにカテゴリー8のLANケーブルは必要だろうか。
意味のある価値かどうか立ち止まって考える、というのがいま必要なスキルだと思う。