2021年12月10日、同人誌ダウンロード販売の大手であるDLsiteからにじさんじの成人向け同人誌が販売停止になる、という事象が起きました。
なんだかたくさんリツイートされてしまったので、正確には
「DLsite様がANYCOLOR株式会社様より「にじさんじ」所属ライバー様を題材とした成人向け作品の販売を中止するよう要請があり、該当作品の販売停止作業を行っています」という事でした。 pic.twitter.com/BquxpjD6C7— 蔵屋⚙Skeb受付中です (@kurya7) December 10, 2021
この件に関してネット上では様々な見方が飛び交っていますが、ここでは「にじさんじは二次創作として何を許していたか」というところに注目して見ていきたいと思います。
にじさんじの二次創作ガイドライン
にじさんじを運営するANYCOLOR株式会社には、明確なANYCOLOR二次創作ガイドラインが示されています。
これは以前切り抜き動画の制作について調べた際にも確認しましたが、他社と比較してかなりユーザーサイドに立った良いガイドラインだと思います。
二次創作者が確認したいことがきちんと明記されているということです。
さて、同人誌に関する規定を見てみましょう。
ANYCOLOR二次創作ガイドライン第6条1項
コミックマーケットやインターネットを利用した同人誌や二次創作グッズの販売等のうち、みなさまの趣味の範囲内の活動であれば、本コンテンツの二次創作作品を販売することはできます。しかし、その販売行為を、ファン活動を超えた事業活動として行ってはならないものとします。(後略)
はっきりと、「同人誌をインターネットで販売して良い」と書かれています。
こうして同人誌の取り扱いを明記しているガイドラインは極めて稀で、非常に良心的です。
一方で今回、成人向け同人誌がANYCOLOR株式会社の意向で販売停止となりました。
ガイドライン上で成人向け作品を拒否する条文はあるでしょうか。
ANYCOLOR二次創作ガイドライン第4条4項
次のような表現内容の作品は、公開することはできません。
(1)本ガイドラインや個別に当社が定める規約、本コンテンツの趣旨及び目的に反するもの
(2)本コンテンツのイメージを著しく損なうまたは第三者の名誉・品位等を傷つけるもの
(3)公序良俗に反するまたは反社会的な表現を含むもの
(4)特定の思想・信条または宗教的、政治的メッセージを内容とする表現を含むもの
(5)第三者の権利を侵害するもの
公開禁止について明記する条項はここですね。
「イメージを著しく損なう」または「公序良俗に反する」と判断したので販売停止した、という扱いはできるでしょう。
しかし、成人向けコンテンツを明確に拒否しているわけではありません。
「ウマ娘 プリティーダービー」の二次創作のガイドライン
比較としてウマ娘のガイドラインを見てみましょう。
具体的には「ウマ娘 プリティーダービー」において、以下の条項に当てはまる創作物の公開はご遠慮ください。
1. 本作品、または第三者の考え方や名誉などを害する目的のもの
2. 暴力的・グロテスクなもの、または性的描写を含むもの
3. 特定の政治・宗教・信条を過度に支援する、または貶めるもの
4. 反社会的な表現のもの
5. 第三者の権利を侵害しているもの
ウマ娘にはハッキリと「性的描写を含むもの」を公開するなと書いてあります。
個人の感覚ですが、成人向けコンテンツを禁じるのであればここまで明確な記載をすべきだと思います。
ANYCOLOR二次創作ガイドライン第7条3項
本ガイドラインの規定内容にかかわらず、当社が必要と判断した場合には、利用者に対し、個別に本コンテンツの利用の中止を求めることがあります。(中略)なお、これにより発生した損害について、当社は一切の責任を負いませんので、あらかじめご了承ください。
一方で第7条には、「ガイドラインに記載がなくても必要なら差し止めることがある」と明記しています。
これは権利者として主張して当然の権利ですが、最終的にはこの条文をもってどんな二次創作でもやめさせることができる極めて強いものです。
まとめ
以上のとおり、今回の成人向けコンテンツ排除は「二次創作ガイドラインに法った行為かどうか」という基準では完全にガイドライン通りの行動だと言えます。
一方で、「ガイドラインのどの部分に抵触したのか、今後ANYCOLOR株式会社と良好な関係を保って二次創作するには何に気を付ければよいのか」という点について明確ではなく、ANYCOLOR株式会社からの声明を出してほしいと思います。
つまり、「同人誌は明確にOKなのに、エロが嫌なら最初からそう言ってくれよ」ってことです。
蛇足:DLsiteの話
DLsiteのコンプライアンスポリシー等を見ましたが、性的描写に関する表現の自主規制については記載がありますが、二次創作物の権利問題には言及がありませんでした。
また、サークル向けヘルプページにはTRPG二次創作に関する記述があり、「カテゴリ全体で明らかにルールが存在するもの」についてはそれに準拠する姿勢が見てとれます。
このあたりから、「グレーゾーンはグレーのままにしておきたい」という思想があるのかな、とは思います。
今回は権利者からの申し立てがあったので販売停止に動いたということでしょう。
しかし、権利者から申し立てがあったのである日突然販売停止、購入済みであっても事前にダウンロードしていないものは見れなくなる、というのは不誠実ではないでしょうか。
事実関係は不明ですが、今回「公式とコラボしたASMR音声を販売するので、エロ同人を排除した」という見方が有力です。
グレーゾーンで商売しているのに公式とコラボしてグレーを黒に染めていくというのは、善悪で言えば悪なのでは?と思ってしまいます。